第25回 ソムリエの実力 その三 ブラインド テイスティング

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • 2003年6月12日(木)
黙って出されたワインの色を見て、香りを嗅ぎ、
一口飲んでズバッとヴィンテージとワイン名を当てる。
漫画などでそんな光景を良く見かけますが、
実態はどうでしょうか。
それを話す前に、いかにワインの種類が多いかを
簡単に説明したいと思います。

フランスワインに限ったとしても、
地域でさえ、ボルドー、ブルゴーニュといった
有名どころのほかにいくつもあります。
そのボルドーでさえ格付けされているシャトーだけでも
50数社あります。
このシャトーが毎年ワインを造っているのですから、
それぞれのヴィンテージのものをマトリックス的に考えると、
むこう50年だけでも2500種以上になります。
格付けされていないボルドーは
数え切れないくらいありますから、
これを考えたら何万種になることか。

ブルゴーニュはもっと厄介でして、
格付けされているワインでも何十、何百という畑があり、
それぞれの畑に何十人もの造り手(メーカー)が居ます。
ブルゴーニュは造り手によって
同じ畑のワインでもまったく味わいが異なってしまうため、
銘柄当ては畑名と造り手、そしてヴィンテージの
3項が揃うことが条件です。
これは天文学的な種類になります。
しかも、ボトル毎に、
樽のロット、熟成の過程での個体差などが加わるため、
極端に言うとどれ一つとっても
まったく同じ味、香りのワインというものは
ないといって良いでしょう。
2大地域のワインでさえこんな種類ですから、
範囲をフランス全土、そしてイタリアやオーストラリアなど
全世界に広げたら気が遠くなってしまいます。
いかに鉄の肝臓を持ったソムリエでも、
全種を経験するのは不可能ですから、
真の意味でのブラインド テイスティング、
つまりすべてが混ざって保管されているセラーから
目隠しして無造作に選んだワインの銘柄を当てるのは
物理的に無理なのです。

実際、大きなソムリエコンクールの決勝で、
花形であるブラインド テイスティングを見学すると
わかるのですが、トップソムリエでさえ
ワイン名どころか国も品種も当たらない回答が続出します。
結構有名どころのワインを出しているのにです。
ソムリエたちや主催者側は、
本来ブラインド テイスティングの目的はワイン名当てではなく、
味、香りなどの表現力を競うものだと弁解しているのが実態です。