第100回 ボツになったある雑誌への取材回答 その2執筆した詳しい動機 後半

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  • 2003年8月26日(火)
そして90年代になってイタリアンブーム、ワインブームが重なって
グルメブームが到来してきました。
この手のガイド本、評価本が溢れ出し、
料理評論家と自称していた人たちの他に、
あらたに「フードジャーナリスト」なる職種の方、
そして外食好きの業界人たちが
書き手として多数出現してきました。
彼ら業界系の書き手は、「良い店とは」、
「サービスの良い店とは」どんな条件なのか、
確固たるポリシーなく、
店や料理人の都合の良い情報だけを垂れ流しているのが現状です。
店の経営姿勢を論ずることなく、
料理人といかに親しいか、顔が利くか、
料理人の経歴や上辺の言葉をただ紹介して、
ヨイショを連発しています。

私も今回本を著してわかったのですが、
この業界で長く食べていくには、料理店側と手を結び合いながら、
護送船団方式でいくのが一番楽なようなのです。
若い頃は舌鋒鋭かった山本益博氏も、
長くこの業界に君臨しすぎたのか、
最近は不自然にまで特定の店への肩入れ、
キングメーカーならぬ人気店メーカー気取りとなっています。
彼の評価と実際の自分たちの評価のギャップの多さを指摘する
一般客も私のまわりには多い。
でも、お金を払って本を購入する読者、すなわち一般客にとって、
本当に役に立つガイド本、評価本なのでしょうか。
料理店評価本が本来誰のためにあるべきか、
考えてみればすぐわかることです。
実名取材でわざわざ申し込んで、
料理店が造った「特別料理」を「特別待遇」のなかで食べ、
それを自慢のごとく書いて、
果たして読者、一般客の参考となるとは思えません。
一般客にはそのレベルの料理が出てこないのですから。

業界系のフードジャーナリストたちが書いている
「東京最高のレストラン」でも、実名取材を申し込むと
料理が変わる、うまくなるということを認めています。
山本益博氏も著書の多くで、自分は料理店、料理人に
自分が来たと認められるための努力を惜しまず、
結果、人よりおいしい料理を提供してもらうと、
公言してはばかりません。
つまり、彼らは
一般読者の口に入る料理でないものを評価しているだけ、
実は自分がおいしい物を食べたがっている、
それを自慢したいだけにすぎません。
特別待遇されて特別料理をたべたい、という気持ちは
わからないではないですが、それは密かにするべきであって、
読者向けに評価として公開する事ではありません。
読者に誤った先入観を与え、混乱をもたらします。

このような、ちょっと彼らの書き物を読んで
考えればわかるようなことを指摘している本や
書き手が存在していなかったのが不思議でした。
誰でも心の片隅には感じていたことのはずです。
マスコミからヨイショばかりされ、
常連やタニマチに甘やかされて、
かなり勘違いしてしまっている料理人も多い。
増長しているとしか見えない料理人と、
料理評論家・フードジャーナリストとの馴れ合い、
必要以上の利益や名誉を追求する料理人の実態に
なんら疑問を呈していなかったこの業界で、
一人くらい本音を言ってもいいだろうと考えていた矢先、
縁あって「グラフ社」から声をかけていただいたのが
出版のきっかけでした。
料理書の出版社としてのイメージの強かった、
どちらかというと優等生的だと思っていた「グラフ社」が、
私の切り口や文章表現に一切口を挟まず、
初めての執筆であるのに
好きなように書くことを許していただいたことは、驚きでした。
一般人の一般人による一般人のための評価本になれば、
と思って著した次第です。