第953回 甘い酢飯が流行っているらしい

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  • 2006年4月15日(土)
最近「鮨」、「寿司」、「スシ」というものが
よくわからなくなってきました。
こう書き出すと、巷では
「友里はやっぱり味も何もわからず悪口言っているだけ」
と鬼の首とったように攻めたてられるかもしれませんが、
「スシの味がわからない」のではありません。
人によって、かなりスシに対する嗜好が異なる、
またその嗜好が変化することがわかったのです。

先日のコラムにも書きましたが、この間まで「鮨屋」は握り主体で、
酢、塩の利いた酢飯が王道であったと思います。
一昨年末デビューした来栖けい氏が注目を浴びたとき、
彼の一押しの寿司屋「入船」の酢飯に対して、
マスヒロさんが雑誌で
「酢飯が緩すぎてこれは江戸前鮨ではない」
と批判をしたのは記憶に新しい。
赤酢を使うかは別にして、
酢、塩がきっちり主張した酢飯でなければ鮨ではない、
ゆるい酢飯の握りは街場の寿司だと。

しかし、最近結構すし屋巡りをして気づいたのですが、
評判のよい店、有名な店、マスコミに露出している店でも、
必ずしも酢や塩の利いた酢飯を出していない。
例を挙げると、浅草の「松波」。
世間では典型的な江戸前鮨屋で通っているようですが、
ここの酢飯はかなり甘い。
主人がいうところ、「甘めの方が飽きずに食べられる」。
普通は、甘さは満腹感をもたらすものだと思っていますので、
酒飲みの私には驚きの発言でした。
実際は、酢飯を甘くすることによって、
早めに満腹感を客にもたらし、
お任せの貫数を減らしているのではないかとの
うがった見方をしてしまいそうです。

最近の鮨屋としては、六本木の「吉武」、西麻布の「きたむら」で、
酢飯にかなりの甘さを感じました。いずれも主人に確認しましたが、
酢飯に砂糖類を入れているとのこと。
ツマミ主体の店の出現に加えて、
酢や塩ではなく甘い酢飯の特徴を持つ鮨屋の台頭、
マスヒロさんの主張に反する鮨屋がここにも出てきたのです。

スシは人によってかなり嗜好が異なる食べ物ではないでしょうか。
新鮮タネ系の寿司屋を好む人、
江戸前仕事と言われる鮨屋を好む人などなど。
まったく別物だと思うのですが、
「美登利寿司」の行列を見るごとに、
スシに対する嗜好は様々である、
つまり「これが本物のスシだ」という
きっちりした形はないのではないかと思うのです。
そうでなければ、
銀座だけで700店舗も存在できるはずがありません。