第697回 特別料理の解釈が間違っている

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  • 2005年7月7日(木)
私が2年前から問題提起している「特別料理」の意味が
まだよく理解されていない方がいらっしゃるようです。
自称料理評論家、フード・レストランジャーナリストたちが
実名取材によって、一般客が食べられない
おいしい「特別料理」を食べて評価しても、
一般客である読者には食べられませんから、
何の利益にも為にもならないと主張しているのですが、
理解されないというより、
無理に理解しようとしていない方がいらっしゃいます。

犬養さんや大谷さんは、この「特別問題」を
「よいワインを出してもらっていない」と
料理ではなくワインにすり替えてごまかしていたのは
以前のコラムで述べました。
でも、一般読者の方が、変な勘違いをされているので
びっくりしたのです。
偶然、アマゾンでの拙著のレビューに書かれていた方の
コメントを目にしました。
マスヒロさんの信奉者、つまり「純粋な読者」の方であるようで、
マスヒロさんの本はすべて絶賛なのですが、
拙著に対してはケチョンケチョン。
それは人それぞれのご意見ですから真摯に受け止めるつもりですが、
間違った解釈をされていましたので、
ここであらためて「特別料理」とは何なのかを
述べてみたいと思います。

その方は、
「有名になって面が割れてしまったからといって
『料理人の腕は5分やそこらでは変わらない』のは、
ミシュランの編集長も昔から言っていること」
とミシュランというビッグネームを持ち出してまで
私の主張を否定されています。
性善説を前提にするならば、
毎日もてる伝手と資金をつかって良い食材を入手し、
全力投球で調理している料理人の店ならば、
実名で名乗ろうが一般客で入店しようが
食べる料理に差はないでしょう。
しかし、そんな理想的な料理人が存在しているでしょうか。
確かに料理人の腕は5分どころか数ヶ月、数年でも
そんなに劇的には変わらないでしょう。
実名で取材するからといって、
普段より腕をあげて料理を造ることは不可能です。
でも、普段の料理が全力でない場合はどうでしょうか。
手抜きとまで言わなくても、
利益や手間を考えてそれなりの料理を出さざるを得ないのが
飲食店経営の実態です。

トップアスリートでも、予選から決勝まで
毎レース100メートルを全力で走ることは出来ません。
完投能力のある投手でも、
9回を相手打者9人に全力で投げることは不可能です。
相手によって、いい意味での手抜きをしています。
実名取材で入店するということは、
普段の一般客が予選とするなら決勝レース、
9番打者とするならば
ノーアウト満塁での4番打者への投球に値すると考えるのです。
まして、実名取材者は当日ではなく、前もって予約しています。
アップシューズでかるく流して走っているアスリートが、
スパイクを履いて全力で走りきるように、
料理人も普段の料理のときと違い、
同じ食材でも良い質、良い産地の物を入手して良い部位を用い、
手間隙かけて調理した料理を出すわけです。
実名取材の場合は採算を考える必要はありません。
宣伝と思えばいいわけで、毎日採算を考えて一般客に出す料理とは
別物が出来上がるわけです。

ちょっと有名になったシェフなら、
店に毎日出ていないかもしれません。
でも、実名取材が入ったら、かならず厨房に入り全力投球、
そしてご挨拶に参上するわけです。
普段の一般客は2番手の造った料理ですから、
これも「特別」でしょう。
5分で料理人の腕は変わるわけではありませんが、
実名取材で料理がまったく変わってしまうという
メカニズムがおわかりになったと思います。
たとえ事前通告せず当日飛び込んだとしても、
手間隙や真剣さが違いますし
同じ食材でも「良い部位」をまわしてきますので、
特別料理はできてしまうのですが、
本来おいしいもの食べたがりの彼らですから、
飛込みではなく事前予約するのは
誰が考えてもうなずけることだと思います。
当初から私は言っております。
プロの料理人は、本気でよい食材をつかったら皆、
おいしい料理が造れるはずだと。

マスヒロさん崇拝のこの方には、
マスヒロさんに問題提起している友里が許せないのでしょうけど、
拙著ではこれらのメカニズムはしっかり書いてあります。
まずは、友里叩きありきで、
購入しても読まないでレビューを書いたか、
購入しないで勿論読まないでレビューを書かれたかの
どちらかだと思うのですが、
じっくり中身をお読みいただければ真意はご理解いただけるはずで
残念です。

「自腹で食べる」、「一般の客として食べる」というのは
マスヒロさんが20年以上前からとっくにやっていたとのことですが、
この10年、15年というか、いつの間にか初心を忘れてしまって
営利にはしってしまったから、今日色々な事が言われ、
噂が飛び交っているという現実もご理解いただきたいと思います。