第570回 友里征耶と客を斬る その15悪口批評は誰でも出来るが品がない

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  • 2005年3月2日(水)
私本人は悪口批評ではなく、
率直にずばり指摘しているだけと思っているのですが、
よく言われる友里への批判です。
最近は、店や料理に一言もケチをつけない姿勢に好感が持てる、
とまで絶賛される「美食の王様」という本がでてきました。
確かに全編褒めっぱなしでネガティヴな表現がまったくありません。
ここまで徹しきる姿勢には脱帽、
私にはマネできるものではないですが、
果たして悪口と言うか批判、指摘は簡単で、
褒めまくりだけが素晴らしいことなのでしょうか。
私には疑問です。
完全無欠な人間がいないように、完全無欠の料理店もないはずです。
また、人は死ぬまで勉強、日々三省し成長していくものでして、
批判から耳を塞ぐとただの裸の王様になります。
料理店も同じこと。
改善すべき点、間違っている点、
勘違いしている点を指摘しなければ
成長はないのではないでしょうか。
批判より褒める方が気は楽で簡単ではないか、と私は考えます。

例えば私がおそらく初めて指摘したと自負している
物議をかもした以下の問題も、
「まず褒めまくりありき」とすれば
読者の方や一般客の皆さんからは
食後感が違うと怒られるかもしれませんが、
これほど店側から憎まれなかったことでしょう。
物は書きよう、
今回は何としても褒めまくる文体で試しに書いてみましょう。

1.「かどわき」が何ら事前に客の了解をとりもせず、
  次の客の予約をとってしまい、
  ご飯物が出る前から退場をせまりつづける「客追い出し事件」。
  これは私だけでなく当時ほぼ日常的に行われていた、
  回転率を無理に上げて
  売り上げ増を狙っただけでのはずですが・・・

この店の主人の客に対するサービス精神には頭が下がります。
一人でも多くの客に食べていただきたい、
自分の料理で満足していただきたいとの真摯な思いから、
この店は独特のシステムをとっています。
常連や一見客の区別はつけません。
とにかく前の客を急かして追い立ててまで
席を空けて用意してくれるのですから、
これほど客思いの主人がいるでしょうか。
これほど使い勝手の良い店があるでしょうか。
このサービス精神の前には、
奇を衒っただけの料理と言われる風評は消え去るでしょう。
その主人の心意気に答えるためにも、
ぜひとも訪れてみたい、後から入店する客にはサービス抜群の店。


2.「カメレオン」はコース1種しかなく、
  バラバラに入店してきた客に
  次々と出さなければならないからか、
  生米からではなく炊いたご飯から仕上げてしまう
  手抜きリゾットを出していた。

萩原シェフは既存の調理法にとらわれることなく、
いつも斬新な調理法を考え出しています。
基本を押さえながらも独自の手法を編み出す萩原マジック。
例えば、生米を使うのが一般的であるリゾット料理ですが、
萩原シェフにかかると、その生米という硬直した考え方を一新。
炊いた白飯を直接使うことにより、調理の時間と手間を短縮。
他の料理へ余力を残し集中力も温存します。
リゾットとはこんなに柔らかく食べやすいものだったか、
と再認識させてくれる、
お粥に通じるあたらしい形のリゾット料理を造り出しました。
斬新な手法による新しい感覚のリゾット、
貴方もすぐさま萩原マジックを食してください。


3.ほとんどの客が不快に感じると言われている
  「レトワール」の三鴨シェフ自身によるホールサービスについて

今まで料理店は、雰囲気、サービス、そして肝心の料理と、
この3つのバランスによって成り立つものとされていました。
しかし、客はそのバランスに満足感を見出すものという既成概念を
簡単に打ち破ったのがこの三鴨シェフ。
雰囲気、そしてサービスなんて関係ない。
特にこれほどまでに客が不快になるサービス、緊張感の元でも
リピートする客がいるという、
彼の造りだす料理のポテンシャルは底知れません。
「性格の悪い料理人の店にうまいものなし」なんて言っている
悪口批評家の定説を真っ向否定する稀代の天才・三鴨氏。
サービスに気を使うくらいならば、人を気遣うくらいならその分、
料理に集中したいという職人気質のシェフの料理をぜひお試しあれ。
今までの貴方の既成概念が吹っ飛びます。

結構褒めまくる原稿を書くのは楽なものです。
これが本当のポジティヴシンキングというのでしょうか。
何としても持ち上げる、ヨイショする、読者を店に呼び込む、
この方針に徹底すれば結構簡単なんですが、いかがでしょうか。
私はここまでして、そして悪い点に目を瞑ってまで
無理に料理店評価をしたいとは思いません。